男とネコ、一人と一匹による密室劇。絶妙な会話のテンポが、居心地の良い佇まいを醸し出している。
が、「だけどおならはかんべんだぜ」「うん出来るだけがまんするよ」のくだりは、台無しである。「おなら」に加えて「だぜ」は無い。ネコもネコで、それに対して「がまんする」旨を伝える義理はないだろう。しかも、「出来るだけ」ってなんだ。
結びにいたる男の心変わりのきっかけが、女が発注していた、主婦の友社の「ふたりの部屋」なる雑誌のバックナンバーである。「ハートカクテル」の出版元である講談社が、他社の雑誌を出すことを結果としてOKしたことになるが、一体どういう経緯だろう。当時わたせ氏はサラリーマンと二束のわらじだったらしく、その意味で出版業界のしがらみには頓着しなくて良い立場だったかも知れない。そこでもって担当者が、我が社としては何としても手元に置いておきたい新進気鋭の逸材故、他社の名が出るのも何卒お目こぼしを、などと上司に掛け合った、などという、そんなエピソードを勝手に想像してみる。
ちなみにこの「ふたりの部屋」、現在は「PLUS1 Living」と名を変えて、絶賛発行中のようである。
サンジェルマンのスイートポテト、Coors、観葉植物、市販のキャットフードで飼われるネコ、主婦の友社「ふたりの部屋」、と、当時のプチブル独身貴族のステータスを満たすであろう記号に溢れている。
それにしても、最後のページの2段目、男の心変わりの経過が恐ろしく良く描けている。間、というのは、こういうことなのだと思う。変化らしい変化といえば、男の眉がほんの少し八の字に垂れるだけなのだけれど、この男、役者だとしたら相当な演技派と見た。
どうもこのコンビ、6年後の「ハートカクテル」連載終了間際に、もう一度顔を出しているようだ。vol.243にて彼らがどうなったのか、楽しみにお待ち願いたい。
女の名は、「渡辺美○…」というらしい。さては「みさ子」か?