みさ子のデビュー作にして、シリーズ序盤最大の問題作。
問題なのは、主人公の男である。雑居ビルの別の会社に勤める名も知らぬ女に、密かに恋心を抱く主人公、偶然一緒になったエレベーターを出る彼女を、扉を閉めることも忘れ、呆然と見送る。
そこまでは良いのだが、何とこの男、勝手に女に名を付けることにしてしまった。妄想の中で彼女を呼ぶのに、名が必要なのである。
小生も大の妄想家だが、さすがにそこまではない。名も知らぬ女性について妄想するのは、例えば通勤列車の同じ車両にたまたまキレイなお姉様がいるときなど、その場限りのケースに限られるからである。彼のような情況ならば、名前をちゃんと確認してからでないと、逆に妄想を楽しめないはずだ。対象までの近さと、妄想に必要な情報量は比例するのである。妄想歴30年の小生に言わせると。
さて、いざ名前を決める段になって、何と彼はわざわざワープロを使用する。頭のなかで決めればいいものを、である。しかも、恐らくこれ、会社の備品である。83年当時、業務用の日本語ワープロなんていうと余裕で100万円以上するシロモノだったから、今どきで言えば、会社の5万円のビジネスPCでエロ画像検索してる方が、まだ健全というものじゃないか。
で、出てきた名前が、美砂子、である。いかにもイイ女風の名ではあるが、100万円のワープロ使っただけのパンチに欠けるのは残念だ。
その後男は、何度か彼女とすれ違ったりするのだが、その度に妄想で「美砂子」語りかける。
最後のページで、会社の先輩から、彼女の名が「清水カオル」であり、「プレイガール」で有名なことを告げられ(主人公の名はワタナベであることも明かされる)、それに対するワタナベの返答で幕となる。
「じゃ先輩 人ちがいです」
「先輩 ボクのカノジョの名前は美砂子って云うんです」
ギリギリのラインで作者わたせせいぞう氏の意図は何とか伝わるが、それに反して、ついに現実と妄想の区別がつかなくなった男、ここに新たなストーカー誕生す、的な解釈の方が容易であることが、この回を極めて奇妙なものにしている。
漫画では、主人公には若干コミカルなテイストが付加されていて、 男の異常性がやや薄れ、ちょっとヘンなヤツ、程度にも見えなくもない。だが、アニメとなるとどうだろう、あくまで二枚目で描かれているため、危険さが強調される結果となっている。ぜひご覧あれ。
けい子…2
みさ子…1