わたせせいぞう氏の作品は、一話が4ページのものが圧倒的に多い。で、左ページから始まる。右ページから始まれば見開き2面で完結するので収まりがいいのでは、とも思ったのだが、これには理由がある気がする。一つには、掲載誌の都合として、カラーページの節約が挙げられる。見開き2面だと、カラーページ3枚が必要なのに対し、左ページ開始だと、2枚でOKである。が、そんなケチな理由ではなくて、創作上の理由があるはずだ。「ハートカクテル」の各話を注意深く見ていくと、次のようなパターンが多いことに気付く。起…タイトルのコマ承…3ページいっぱいまで転…4ページ目結…最後のコマこのパターンが、なんとも心地よいリズムを産み出しているのだが、とりわけ、4ページ目をめくった時のインパクト、「転」に変ずるカタルシスが、左ページ開始にすることによって最大限に高まるというわけである。当回は、このパターンによる典型と言っていい。4ページ目をめくったとたん、1975年から1984年に飛び、見事な「結」によって、彼らの時を越えた友情が、胸に迫ってくるのである。
「ハートカクテル」考 ~ vol.019 Running
これまた淡白なカップルである。「やがてあなたは新しい女(ひと)と知り合うのネ」「新しい恋人出来たら知らせて」「本当に行ってしまうのかい」などと遣り取りしてはいるが、あんたらに遠恋という選択肢はないのか、と、単身赴任歴5年の小生は思ってしまう。余計なお世話というヤツだが。小生は、数年前より健康とダイエットのためにランニング、というよりはジョギングを趣味としており、ついにこの秋より市民マラソンにデビューすることと相成った。想うのは、ジョギングが趣味です、なんていうのは、やはり加齢の仕業に違いない、ということだ。年齢相応にストレスみたいなものを抱え、余計な脂肪も抱え、それらから解放する手段としてジョギングほど効率が良いものは無いのであるが、若い頃はその辺の計算を出来ない、というよりは、そんな計算などしたくないので、どうしても忌諱してしまう。その忌諱が解けて、アンチエイジングの効率でもって、やっぱジョギングだよな、と思うに至ったならば、それは加齢が若さ故のこだわりを追い越したということだろう。信号待ちで手首足首をブラブラさせて、いかにも「信号待ちのジョガ [...]
「ハートカクテル」考 ~ vol.018 父のエンブレム
「ハートカクテル」考 ~ vol.017 スプリング・ジェントル・レイン
「カリンカリンのフライドポテト&冷えたビールを飲」ることが、ささやかながらもどんなに贅沢なのか、わたせせいぞう氏はよく知っているに違いない。最近の傾向では、フライドポテトは中がモッチリが良いといわれているようだが、何をか言わんや、である。アブラで揚げ上げた、まるでひねり揚げみたいな食感のヤツこそ最高なのだ。ファストフードで買ったなら、容器の底にたまってるようなのが良い。ヒロインは、わたせせいぞう氏が描く「いい女」の中でも、とりわけ「いい女」度が高いであろう風であるが、がっちりキメた前髪は、今に至るまでスナックのチーママの定番である。下に、アストラッド・ジルベルトの「Gentle Rain」を貼っておく。不安定なピッチがなぜかエロい、というのは、彼女が嚆矢じゃないか。
「ハートカクテル」考 ~ vol.016 彼のパパは東へ行けといった
「ハートカクテル」考 ~ vol.015 さよならホワイトレディ
この稿を書くに当たって当回を読み返して、やっとオチの意味が分かった小生である。「ホワイトチョコレット」を上空から見下ろした雪の街に見立てた、というわけ。つくづく己の察しの悪さに呆れてしまう。「ハートカクテル」に登場する男女は、止むを得ず別れて暮らさねばならない事情が生じた場合、何故か遠距離恋愛という選択をすることはなく、淡白にも、その恋にピリオドを打つケースがほとんどである。わたせせいぞう氏は、のちに「八重と次郎」という、京都と仙台(及び札幌)に別れて暮らす男女の愛を綴った作品を発表するが、その割には、だ。当回は、そんな淡白な男女を描いた、シリーズ最初の回となる。「ボクの心の中の7人の小人達」なる妖しげなフレーズが飛び出すが、このフレーズを実際に用いた男が、小生の知り合いに、一人いる。
「ハートカクテル」考 ~ vol.014 彼女のこと – タバコ
へぇ、カルティエからタバコ出してたんだ。タバコに対するイメージ自体が随分変わってしまったワケで、勝手なものだが、もはやタバコ吸う女性に対しては、「息、タバコくさいんだろうな」とか、「老けるの早そう」とか、とにかくネガティヴな想像しか浮かばない。つまりは、その女性の女性としての魅力を著しく減じる要素でしかない。が、確かに昔は、例えば桃井かおりみたいな、いわゆるアンニュイなお姉様を演出するための必需品みたいなモノだったろうし、吸い口についたルージュなんてのも、艶かしく思われていた。まぁ要するに、「女性が吸うタバコ」に、何か性的なイメージを喚起させられたのだ。2ページ目の最初の、店のカウンターで喫煙する女性なぞ、まさにそのような意味での「女性性を強調するツールとしてのタバコ」を吸っている風である。そう考えると、この数十年ですっかり評価が真逆になったという好例かもしれない、女のタバコというやつは。主人公の「カノジョ」の方は、「かわいい刺繍のついた布の袋に」タバコとライターを入れているところを見ると、上記の女性に比べて、タバコを通じて性的なイメージを振りま [...]
「ハートカクテル」考 ~ vol.013 北へ251キロ
「ハートカクテル」考 ~ vol.012 兄のジッポ
涙なしには語れない、初期の名作だと思う。個人的には。というか、ヒロインの麗子さんがタイプである。何がいいかというと、まずワンレンである。当回は1984年の正月だが、いわゆる「ワンレン・ボディコン」みたいに称されて世間的に認知されるのは、5年ほど後だから、この麗子嬢、大分時代の先を行っているかもしれない。当時の有名人で言えば、小生的には、この年のヒットソング、「雨音はショパンの調べ」の小林麻美あたりが思い浮かぶ。ややパーマ掛かってたものの、「ワンレンのお姉さま」の先駆け的存在と言えるだろう。ちなみに、原曲の、ガゼボ「I Like Chopin」もいいから、下に勝手に貼っておく。次に、体のラインが滑らかに浮かぶ茶色(恐らくフェルト地)のコートだ。いい女はこれが似合わねばなるまい。その点昨今の若いのは…、などと宣うのは、ここでは止めておく。そして、何と言っても、若い寡婦である、という点だ。下世話でホント申し訳ないが、男はこれには弱い、はずだ。こりゃさすがに主人公じゃなくとも、「母さん オレ麗子さんと結婚しようかナ」と、思わず言ってしまいたくなる。まぁ、 [...]