慣れない海外出張が一週間続き、時差ボケ激しく、しばらく更新をサボってたものだから、今さら田母神元空幕長について書く。
こういうのを「過激分子」と言うのだろう。あなたの会社にもいるでしょう、会社に対する不平不満を糾合してヒロイックに振舞うんだけれど、世間知らずの若いのを中心に一定の支持を取り付けてるもんだから、会社も切るに切れない次課長クラス。経営なんてキレイキレイにやれるもんじゃない。不平不満を社員に強いらねばならぬ如何ともし難い情勢は、常に付きまとうもんである。それを呑ませてこその次課長だし、呑んでこその社員だ。呑ませられない、呑めないんなら、何もヒロイックに振舞ったり、それに心酔してる場合じゃない。何が会社をそうさせてるのか真剣に考え、得てしてそれは純利益が足りんという話だから、自分自身が純利益を産めるよう営業努力をすればいい。いや、コトはそんなに単純じゃない、なんぼ営業努力したってダメな体質が会社にある、というなら、立つ鳥後を濁さぬよう、辞表を提出するまでのことである。
以上は、例えば法を犯して何ぼのほんとーにしょーもない会社の場合は当てはまらないし、ましてや労使問題を軽々に扱うものでも決してない。そうじゃなくって、「やるべきことをやらずに」いい格好をし、己のヒロイズムにすっかり酔ってしまってる連中の話である。彼らは、「やるべきじゃないことをやってしまっている」ことに気付かないものだ。
空幕長としての田母神氏の「やるべきこと」は、自衛隊のアンビバレント性を、部下にきっちり伝えることだった。それでいて軍(と言ってはいけないんだろうが)としての士気を高めることとの矛盾があって、その両立は非常に難しいんだろうとは想像できる。いや、確かにキツいはずだ。が、かといって、開き直ってしまうのはどうか。結果、「やるべきじゃないことをやってしまっ」たということに、彼は思い至らなかったらしい。
僕はいわゆる「サヨク」だが、田母神氏のやってしまった「やるべきじゃないこと」の内容に踏み込む気は、今はない。日本は植民地の地元住民に悪いことしてない論についてあーだこうだ言わなくたって、それ以前に田母神氏が「やってしまっている」ことの重大性を指摘するだけで事足りる。それはつまり、軍ないし自衛隊、即ち国家に所属すべき強大な暴力装置が、主(あるじ)たる国家の意思から離脱することは、「過激分子」たらんとすることに他ならない、ということだ。
かつての関東軍の高官参謀どもは、己が「過激分子」たることに酔い、大権を侵し、国を滅ぼした。田母神氏のヒロイズムに同じものを感ずるのは、僕だけではあるまい。
ああそうか、今の日本は「ほんとーにしょーもない」国家だっていうんだろ。まともな自衛権さえまともに存立できない国家って、一体何なのよ、と。だけど僕なんかが思うのは、そもそも「国家」なる概念は、この極東の長い歴史を鑑みて、どうも欧米から捻じ込まれた概念なんだと思う。無理っくり捻じ込まれたもんだから、捻りカスがボロボロ出てきちゃって、今やもうどう仕様もなくなってるんじゃないかと。「ウヨク」諸兄に、何となくでいいからその辺ご賛同いただけるのなら、じゃあ、そっから先どうだったんだ、という話も、ここから先どうします、という話も、彼らといくらか噛み合えるかもしれない。
だから、「愛国」バカの「過激分子」的ヒロイズムだけはご勘弁いただきたい。そんなもんは、「愛国」ヅラした底の浅い「非国民」に他ならないから。
田母神氏に孤高のモノノフを感ずる向きもあるかもしれない。しかし、モノノフが武士たる所以は、「奉公」であり、それは即ち、「職分を全うする」ということに他ならない。本来地味なもんで、お気楽なヒロイズムとは程遠いから尊いのである。少なくとも、「生活キツいんで退職金もらいます」みたいなこと言う前に、自分の主張の是非はともかくお上に迷惑かけたことは確かなんで腹切ります、ぐらいのものだ。苟も自衛官たる身が奉るべきは公であり、私のイデオロギーではないのである。