『レスラー』評

僕が愛用している映画評投稿サイト
に投稿したが、文字数の制限があったため、こちらで全文を掲載させていただく。

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■待ちに待ったミッキー・ローク久々の主演作!!カンヌ獲って、これだけ話題になって、実際に評価も高く、アカデミー主演男優賞にまでノミネートされて、僕は本当に嬉しい。出来れば去年のうちに観ておいて、その感動を胸に年初の賞レースを迎えたかったのだが、日本公開がこの時期になってしまったのが残念といえば残念だ。
■いろいろ見てると、プロレスファンにはたまらない内容、との評が多いようだったが、往年のHR/HMファンにもたまらない内容であることも忘れてはならない。ロークとトメイに「80年代は最高、90年代は最低、カート・コバーンが全てをぶち壊した」みたいなことを、RATTをBGMに語らせてるけど、これって当時『BURRN!』やら『METAL GEAR』やらの愛読者だった連中の本音だったりする。ロックだけに、ぶち壊したモン勝ちであることは百も承知なのだけれど、だからこその悔しさや嫉妬がどうしても口を突いてしまう。いっそのこと、本作のヘビメタ版みたいなのも作ったらいいかもしれない。モデルとなるミュージシャンなら、ごまんといるだろう。
■「ミッキー・ロークのカムバック作!」という評、というかキャッチコピーには、多少の違和感がある。今世紀に入ってから、徐々にではあるが独特の存在感を発揮することに成功しつつあったからだ。それは確かに昔のような「唯一の主演」級ではないにせよ、「ミッキー・ロークがそこでその役を演じている」ことが、その作品の一つのファクターとなっているケースを、僕らはいくつも目撃している。だから、巷の印象のように、本作でゼロから100へのカムバックをしたのではなくて、60か70ぐらいから100になった、というのが僕の印象だ。ローク自身、「ゼロから100へ」の一作として本作を位置付けるような発言を繰り返してはいるが、だからそれは、「キャッチコピー」に準じてあえてそう発言してるんじゃないか、と、穿ってしまうのである。確かに本作は唐突に数多くの映画賞を彼にもたらしたが、仮に本作が無かったとしても、『シン・シティ』辺りの存在感でもって、「その昔ブイブイ言わせてたこともある、濃ゆい味わいの性格俳優」として十二分に活躍できてたはずだ。
■かつて(日本では某二大映画誌を中心に)、ミッキー・ロークを「セクシー俳優」としてアイドルのように祭り上げたムーブメントが…
(たった今、三沢光晴の訃報が…)
…あったが、僕等も、そして本人も、そこで勘違いしてしまったようだ。いざ、あの「上目遣いのセクシー面」をはがし、「モニョモニョセクシー声」をナシにしてみると、アクターズ・スタジオ仕込みなのかどうかは知らないけれど、「真っ当な演技派」と言うに相応しいロークの実力が浮かび上がってくる。本作で僕が堪能したのはまさにそこだった。『バーフライ』でも『フランチェスコ』でも、「セクシー俳優」イメージがバイアスとなってイマイチ堪能し切れなかった「実力」が、本作では遺憾なく発揮されている。
■文学には「読後感」というIMEでも一発変換されるタームがあるが、映画のそれ、即ち「鑑賞後感」について言うと、なんともふか~いところから絞り出るような哀しさがあった。実は、観る前の濃厚な予想の一つとして、結局のところ『ロッキー』と一緒の構造になってるんじゃないか、という一種の杞憂があったのだが(ロークはスタローンを兄のように慕っていた時期もあるらしいから尚更だった)、平べったい解釈で恐縮だけど、『ロッキー』のテーマが「孤独なチャレンジ」であるとするなら、本作のテーマは「孤独そのもの」であると感じた。ロッキーのチャレンジは殆ど誰も理解してくれない。だが、かろうじてそのチャレンジの断片でも理解してくれるようになったほんの数名は、エイドリアンやポーリーといった現実のファミリー、即ちボクサーだの何だのの立場を超えたインサイドだ。一方のランディは、客やレスラー仲間をファミリーだと言うけれど、それは己がレスラーであるという立場の上に成り立っている。当然だけどこれは外部に形成された(/しようとした)仮想的なファミリーであって、トメイやレイチェル・ウッドのようなインサイドではない。こういった対照的な構図がある。
■さらに言うなら、『ロッキー』は「お伽噺」で本作は「現実」である。この社会においては、「孤独そのもの」なんて平気でやってくる。アメリカン・ニュー・シネマに対するアンチとして『ロッキー』を捉える向きもあるが、だとすれば、本作はニュー・シネマの正統、もしくは続編に属するとも言えるかもしれない。そんな「鑑賞後感」があった。
■…と、グダグダ書いたけど、言いたいのはこういうことだ。ミッキー・ローク最高。そして、ありがとう。

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