「ハートカクテル」考 ~ vol.025 プール・イン・ザ・レイン
「ハートカクテル」の初期の作品中、小生がもっとも語りたかったのは、何を隠そう当回である。
この、「プール・イン・ザ・レイン」なるタイトルから、小生が真っ先に連想したのは、レッド・ツェッペリンの「フール・イン・ザ・レイン」だ。
小生がツェッペリンにハマり出したのは、確か中3の時だったと思うが、最初に買ったツェッペリンのアルバムが、「フール~」を収録している「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」。多少なりともツェッペリンの知識がある人なら分かると思うが、このパターンは非常にレアで、そんなわけだから、ツェッペリンの曲の中で一番好きなのは「イン・ジ・イヴニング」です、というひねくれたツェッペリンファンになってしまった。
で、ツェッペリンのソフトな曲調のもののうちもっとも好きなのが、この「フール~」。「ラ・バンバ」や「ツイスト・アンド・シャウト」といった名曲と同じ、C→F→G→Gの黄金のコード進行で、この進行は、我がボン・ジョヴィ大先生の一連のヒット曲の原型ともいえるから、すぐに耳が反応してしまった。ツェッペリンには珍しく、ビルボードのシングルチャートのTOP40に入ったのもうなずける。ギターソロもいい。このラテン然とした平和な曲を、オクターバー+ディストーションでぶちかまそうなどと思うのは、ジミー・ペイジをおいて他にいない。また、ジミー・ペイジは、絶対にソロを2テイク以上録らなかったというが、ある程度の流れや、出だしのフレーズなどは、事前にセットしておくそうで、このソロは、そうやって録られたことがよく分かる好例だと思う。
そのフレーズは、なぜだかやたらと切ないのだが、切ないのは何もフレーズだけではない。速弾きがヘタウマ過ぎて、聴いてるほうが別の意味で切なくなってくる。「速弾けてない速弾き」を、こともなげにに商業作品に持ち込んでしまう、そんなことを許されるのは、ジミー・ペイジをおいて他にない。しかしながら、ロックに目覚めたばかりのミドルティーンが、「レッド・ツェッペリンこそハードロックの創始者!」みたいな情報ばかりが先行した頭で、このソロをありがたく拝聴する限り、「おぉ、もしかしてこれが速弾きというヤツか」となってしまうこともないわけではない。白状するが、事実、当時の小生は、この速弾きとイングヴェイ・J・マルムスティーンのそれとを比較して、「ちょっとイングヴェイの方が上手いかな」ぐらいに思ってました。イングヴェイさん、マジごめん。基準、とか、モノサシ、というヤツは、きちんと身につけてなんぼである。
後年、知り合いのドラマーにこの曲の話をしたら、このボンゾのドラミング、ハーフ・タイム・シャッフルの一つの頂点と言われる、あのTOTOの「ロザーナ」のドラムパターンの原型になったんだそうな。なんでも、ジェフ・ポーカロ自身の証言があるらしく、ドラマーの世界では常識なんだそうである。YouTubeでその証言とやらを発見したんで、一応貼っておく。
さて、ツェッペリンの話が長くなってしまったが、「プール~」の方に戻ろう。このタイトル、わたせせいぞう氏がツェッペリンの「フール~」のもじりとしてつけたものかどうか、一切情報はないのだが、小生はそうじゃないかと思ってる。「わたせ氏がツェッペリンなんか聴くわけないじゃん」と思うかもしれないが、理由は二つある。
一つは、もじりでもないのに、「プール・イン・ザ・レイン」などというタイトルをつけることもない、ということ。あらゆる可能性の中から、なぜこのタイトルが選ばれたのかを想像するに、「フール・イン・ザ・レイン」の存在を抜きには考えづらい。「雨の中のプール」ではなく、あくまで「プール・イン・ザ・レイン」なのである。最初は、”fool in the rain”なる常套句でもあるのかと思ったが、Google.comで検索をかけて、10ページ調べてみても、それはあくまでLED ZEPPELINの『Fool In The Rain』であった。
二つ目の理由は、最初に紹介した「フール~」を収めているアルバム、「イン・スルー・ジ~」のジャケットにある。
このジャケット、Wikipediaの解説にもあるように、ちょっとした仕掛けが施されていて話題になったものだが、マッチを擦るこの男、白の帽子に白のスーツで、「プール~」の方の主人公の出で立ちと一致するのである(原作の場合。アニメ版は、ちょっと色味が違う)。小生の願望が入り混じった推測ではあるが、これをただの偶然とも言い切れまい。